聞き書き彼女たちのセックス
AVモデルからSM嬢へ
 11歳年上の男性と別れたいと思っていた時、高校2年の夏に3Pを体験した男友達の一人に彼女は偶然再会する。

「一気に時間を飛び越えた感じでした。私も彼も実はSMの気があったんですよ。大人になって会うとそれがお互いわかって。彼とのセックスは一番よかったですね。すごくセンスのある人で。いろんな事をしてくれて、とにかく楽しかった。彼とつきあうようになってから、年上の男とは別れて、おばあちゃんの家に身を寄せたんですけど、おばあちゃんが留守の時にSMの彼が遊びに来て。玄関先で私のおまたを全開にしてドアのほうに向けて。後ろから入れてくるんです。その時『今おばあちゃんが帰ってきたら、見られちゃうよ。それとも今お外で遊んでいる子供たちに見せてあげようか』なんて言われて。もう最高に燃えました」

 けれど大好きだったその彼はほかに数人の女がおり、そのうえ働かずにぶらぶらしていたため、結婚には発展しなかった。その頃から彼女はいろいろな仕事を体験する。まずはマネキン紹介所。それからリゾート地の土産物店の店員。北海道から沖縄まで、いろんな所に行ったという。

「東京に戻ってきてまたデパートで働いたりし始めたんですけど、仲間たちと中国旅行をしたら、それでスッカラカンになっちゃって。デパートのお給料って1か月先じゃないですか。その間、どう乗り切ろうかと思っていた時に街でAVギャルにスカウトされて。『あ、渡りに船』とか思って迷わずしましたよ。今でも覚えてます。税込みで15万。半日で。それからいろんな、そういう業界の仕事して」

 内容にもよるが、だいたい1万5千円から、10万円。ビデオ、雑誌のパンチラやTVでの水着、ヌード写真のモデルなどをしてきた。いいペースで仕事は続き、デパートの仕事は辞めた。

「でも、それだけでもつまらなくって。もっといろんな体験をしたかったので、AVの現場で知り合った女の子たちから聞いたSMクラブでのアルバイトを始めたんです。なんていうか、エロを究めたいみたいな。それが動機です。あと、モデルの仕事って、必要以上にチヤホヤされるじゃないですか。それがなんか居心地悪くて。『これは変だぞ』みたいな。たとえば売り子とかしていると、お客さんって、お金を払うっていう理由だけですごく傲慢だったり、意地悪だったりするわけですよ。そういう体験長かったんで。なんかモデルだけだと精神状態がよくなくなっちゃって、少しサービスでもするかと」

 彼女はSM嬢としてももちろん人気を博した。冒頭の女王様に会ったのはそのクラブでだそうだ。


いつ運命の人と出会うんだろう
「おもしろかったのは、たまに『あとで5万払うから本番させてくれ』、とか、『月30万で愛人にならないか』なんて言って『だから本番させろ』なんて言うお客さんがたまにいること。本番したければそれ用のお店に行けばいいのに、ヘンですよね。もちろん断ります。『あとで』なんて言って、お金くれるわけないし。ただ、なんでそんな悲しい嘘をつくのかなって。そんなこと言わないでくれれば、こっちも『ばーか』なんて思わなくていいのに」

 まゆみの一貫した態度なのだが、まゆみは決して男を馬鹿にしない。恨みもしない。悲しいと思うことはあっても、結局は許してしまう。なんだかそんな精神性を、私は彼女に感じた。
 なんでも許してしまう。なんでも受け入れてしまう。そんなまゆみが体験した人数は100人を超える。淋病とカンジダに一度ずつなった。けれどまゆみはちっともすれていない。汚れた感じなんて全然しない。きっと16歳の初めての時から、まゆみは男の人に、同じ曇りない瞳を向け続けている。

「なんていうか、いつも恋が終りそうだなという時、必ず次が現れる。嫌だな、と思っていると、それは勝手にいなくなってくれる。そういうところはあって。自分がいけない部分もあると思いますけどね。超恋愛主義っていうか、いつもドキドキしていたくて。『いつ運命の人に出会うんだろう』って、ドキドキしている部分があって。多分それが、自分のいろんな体験を呼び寄せているんだと思いますけどね」


エロ業界にいた私を認めてくれる人と結婚したい
 そんな彼女が望むことは「普通の結婚」だ。

「30歳くらいまでには結婚して、子供は3人欲しい。セックスは大切なコミュニケーションだから、相性は大切。お金はあるほうがいいですね。今までお金ない人とばかり、つきあってきたから。ひどくお金持ちじゃなくていいから、きちんと稼いでいる人がいい。それから、私がエロの仕事をしてきたことは、知ってもらったうえで、結婚したい。好きでしていたことなので、そんな自分を認めてくれる人でないと、幸せになれないと思うんで」

 彼女は本当にいい奥さんになるんじゃないかと、私は思った。彼女は嘘がない。正直なだけなのだ。いくら立派な経歴で男性経験が少なくても、心の中は打算だらけの女なんて一杯いる。彼女は少なくとも、自分の値段を吊り上げるために、つまらない我慢なんてしていない。だから人をうらやむこともなく、男をいつも許し、こんなに真っすぐな瞳で嘘なく生きられるのじゃないだろうか。彼女は心の赴くままに流され、体験した。結婚したら、こんな女性こそ浮気なんてしないような気もする。

「自分が正しい生き方をしているとは思ってないです。エロ業界の仕事は、軽蔑されてる仕事だって知ってるし。でも、私はそれが好きなんですよね。解放される気がするっていうか。それに、思うんですけど、世の中には総理大臣になって人の上に立つ人ともいれば、私たちみたいに軽蔑を買いながらする仕事をする人もいる。でも、必要だから両方ある、両方とも社会の役割なんだと思うんです。尊敬される人も、軽蔑されたり軽んじられたりして生きる人も必要なんだろう、それぞれの役割なんだろうなって。エロな仕事好きだったから、やったことは後悔していません」

 今。彼女は「エッチ系」の仕事はやめ、お花屋さんと、20歳の頃から続けているボランティアと、手芸にいそしんでいる。エッチの仕事はとりあえず「したくなくなったので、おやすみ」なのだそう。そうしたら「普通」の仕事がちっとも退屈でなくなった。エッチの仕事と同じように。
 きっと彼女のそれぞれの顔はみんな彼女で、どれも本当なのだ。普通の人はどれか一つを演じようとしてそれ以外の自分を封じ込めてしまうけど、彼女はそれをしないだけ。AVギャルと熱心なボランティアが両立しないように、なぜ私たちは思ってしまうのだろう。一人の人がそんな多彩な顔を持っていることは、むしろ素晴らしいことなのに。

「もしよかったら、今度手芸の作品展するので見に来てください」彼女は言って、雑踏の中に消えていった。そうして人々の間に混じると、すぐに見分けがつかなくなってしまう。そんな普通の女の子だった。

(文中はすべて仮名です)
2003.11.7up

■さかもと未明プロフィール
OLから漫画家に転身。愛と性を生涯のテーマに、コミックのみならず、ルポ、エッセイ、小説と活動の場を広げる。現在、『SPA!』(扶桑社)、『ViVi』(小学館)、日刊スポーツ新聞などで連載を持つかたわら、TVにも出演。多忙な日々を送っている。
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