聞き書き彼女たちのセックス
ご主人との出会い、初めてのセックス
 新しい恋人は、えりさんより10歳くらい年上で輸入代行の会社を経営する男性。もちろん独身で、よく働く真面目な人だったという。

「でもあまりにも忙しすぎて、ほとんどデートできないの。顔が見たいけど忙しいって言うから会社に行くじゃないですか。小さいビルにワンフロア借りて、従業員が3人くらいの会社なんですけど、一応彼専用の社長室もあったんで遠慮なく。

 そしたらキスだけちょっとして。あとは忙しいから一人で遊んでおいでってお金くれるの。5万とか、10万とか。カードを渡された時もあった。嬉しくないこともなかったけど、何度も続くうちに寂しくて。そんなことより二人で過ごしたいのに。けど彼は、抱きたい、というよりは『彼女がいる』という状態を必要としているみたいな人で。私フィジカルな人だから、つらくて。で、つまんないなって、町でふらふらしている時に、今の夫と出会ったんです」

 ──それはナンパで?

「ううん。昔からの知り合い。私より10歳年上なんですけど、高校生の頃、グループで遊んだ仲なんです。でもお互いに恋人いたんでそういうことにはならなくて。で、それまで何年も音信が途絶えてたんですよ。それがばったり会って、『うっそー。懐かしーい』って、すごく盛り上がって。

 次に会った時に私がその彼との状況を話したら『その関係はよくない』って言ってくれて。私、バブル時代に会った男の人たちにすごく甘やかされていたから、すごくわがままになって、常識をなくしていた部分があったんですけど、そういう私のわがままを彼は否定してくれて。それがすごく新鮮な喜びだったんです。彼はお金こそないけどハートがある人だって。お金持ちとつきあったあとだからこそ、そう思ったとは思うんですけどね。

 それでその時までの彼とは別れて、主人と会うようになりました。ちょうどクリスマス前だったかな。初めてホテルに行ったのは。ラブホテルだったけど、全然気にしませんでした。好きになってたから、場所はどこでもよくて」

 ──そのときのセックス、よかったでしょう?

「それがね。できなかったの! あまりの緊張に、処女に戻ったみたいに体が堅くなって、全然濡れない。だから入らないんです。でも、そのくらい好きになってたの。そのあと3か月そんな感じ。もうだめになっちゃったのかも、って。でも、それでも好きだから側にいられればいいよ。なんてお互いに言ってたら、春頃にちょうど雪解けみたいに突然できて。

 それからは会えればほとんど毎日。1年後に結婚してからは、6年間ずっと毎日だったんですよ。生理の日も」

 と、えりさんは笑う。ちなみにご主人は、今までつきあったなかで一番の絶倫にして巨根でいらっしゃるそうだ。いやはや。


「わたしの体験はあの人のオカズなの」
 ところで、ご主人はえりさんの体験を全部知っているという。豊富な彼女の体験に対して、ご主人に迷いが出たりはしなかったのだろうか。そう問いかけると、えりさんは「全然」と笑った。

「て言うか、私の体験はあの人のオカズなの。あの人は私が大好きで、『私フェチ』なのね。仕事から帰ると私を膝に乗せて、可愛い可愛いって言って始まっちゃうの。そしてその時のオカズが私から過去の体験告白をさせることなのね。

 その愛し方がまた変態なの。一種の羞恥プレイなんでしょうね。私に告白させて、恥ずかしがらせるパターンが好きで。そんな私に彼は『そんなことされて感じたのか。イヤらしい女だな。誰とでも感じるんだな?』なんて言いながら乗ってくるの。実は私、結構そのパターンが好きで、夢中になってやっちゃう。セックスって芝居っ気が大切よね。彼とのセックスは楽しくてたまらない。私に告白させている時の彼の顔って最高よ。片側は怒りと嫉妬に燃えているんだけど、片側はトロンとして興奮状態なの、右脳と左脳が別々に反応してるのかしらね?」

 とは言えご主人の要求はかなり高度だ。えりさんは何度それを繰り返そうとも、まるで初めて告白し、凌辱されるように本気で恥ずかしがる演技をしなくてはいけない。慣れが出てきて演技に気合いが足りないと、ご主人のご機嫌はかなり悪化するのだそう。

「だからときどき、『やってられっか』って思うわよ。なんたって毎日だし」

 でも、ご主人のことが愛しくてたまらないのだと言う。そんなふうに抱いて抱いて抱きまくってくれる夫に出会えて私は幸せだ、とえりさんは言いきる。

「正直、夫がセックス好きすぎっていうのはありますよ。私、週に2回フラワーアレンジメントのスクールに行ってるんですけど、たまに夫から『仕事が早く終わったから、車で迎えに行くよ』なんて電話がかかってくるんですよ。そうすると『あ、今日もやる気だ』なんて可愛く思えて苦笑してしまいますからね。でも、本当にこんなふうに愛される結婚ができたことは幸せに思っています。最近は『そろそろ週3~4回でいいや』って思うんですけどね。女にとっての一番の幸せは、お金でも仕事でも夫の地位でもなくて、夫にたくさん抱かれることだと思うんですよ。私、本当に夫に会うまでは満たされない女だったんですけど、夫に会って心から変わったなって思うんです。私が夫をあやしているようなこと、言ってしまいましたけど、本当は夫の手のひらで私が転がされているんですよ」

 えりさんは最後にそう言い、じゃ、夫が待っているので、と鞄を手にとった。

 奔放にたくさんの男たちに抱かれた果てに最愛の夫に出会う。しかも夫は彼女の過去ごと、性欲から何からすべてを受け入れてくれている。えりさんは女の理想のセックスライフを手にした人なのだろう。肌からむせ返るようにたちのぼる香りは、女の自信だったのか。

 彼女の残り香のするソファで取材したデータを整理しながら、きっと今夜は今日の話をネタに盛り上がるのだろうな、と思って笑いがこぼれた。セックスをより濃厚に楽しむ資質のひとつが、演劇性と笑いの感覚なのかもしれない。自分のちょっぴり変態的な資質を笑い飛ばして、それをプレイとして楽しめる男女は、本当の大人と言っていいのかもしれない。えりさん、この写真とデータが掲載されたら、またご主人と新しい羞恥プレイをぜひ。


(文中はすべて仮名です)
2003.12.12up

■さかもと未明プロフィール
OLから漫画家に転身。愛と性を生涯のテーマに、コミックのみならず、ルポ、エッセイ、小説と活動の場を広げる。現在、『SPA!』(扶桑社)、『ViVi』(小学館)、日刊スポーツ新聞などで連載を持つかたわら、TVにも出演。多忙な日々を送っている。
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