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第13回
エロ業界と学校の不思議な相似

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僕が風俗嬢やAVモデルにインタビューする時、必ず聞くのが「この仕事を始めたきっかけ」です。ま、これはお約束みたいなもんで、一応聞いておかなくちゃって質問ですね。それから、もうひとつ「このお仕事、楽しい?」ってことも必ず聞きます。実は僕自身はこっちの答えの方が気になるんですよ。

「うん、楽しい」
 あっけらかんとそう答える子の多いこと。そりゃインタビューなんだから、営業トークでそう答えるに決まってる、というかもしれませんが、仕事を離れてプライベートで話を聞いても、「楽しいよ」と答える子、すごく多いです。

 それどころか、「引退してからも、この業界に関わっていたいんだけど…」と言う子も増えています。AVの子だと、制作やメイクになりたいとか、風俗の子だと風俗ライターやカメラマンになりたい、なんて言うわけです。で、実際にAVメーカーの制作スタッフや広報、風俗ライターになっちゃった子もいるんですね(残念ながら長続きする子となると少ないんですが)。

 前回、このコラムで書いたように、多くの子は引退すると携帯電話の番号やメールアドレスも変えて、業界から一切の連絡を絶ってしまうんですが、彼女たちは逆にいつまでもこの業界とつながっていたいというわけです。
 この業界のこの仕事の、何がそんなに楽しいんだろう…。
 風俗やAVといえば、借金などを抱えてたり、だまされたりして、泣く泣くやっているもの、なんて思っている人も、まだまだ多いんですが、そういう人たちにはとても理解できないでしょうねぇ。
 この仕事が楽しい、なんて聞くと、「そんなにエッチが好きなのか」と短絡的に考えちゃったりもしますが、そういうわけではないようですね。いや、もちろん「エッチが好きだから、この仕事は天職!」なんていう子もいるんですが、それでも「エッチの気持ちよさ」だけが、この仕事の魅力のすべてだとは思ってないはずです。

 印象深かったのが、とあるAVモデルの子が言っていた「現場のムードが好きなんです。AVの現場って学園祭みたいなんですよ」という言葉。
「わいわい言いながら、みんなで一本の作品を作り上げていく感じが楽しいんです」
 なるほど、と思いましたね。特に企画系AVなんかだと、モデルの子もあまり特別扱いされずにスタッフの仕事を手伝わされたりして、本当に学園祭の準備でもしているみたいなノリだったりします。みんなで冗談を言い合ったりして、和気あいあいなムードの現場も多いのです。ハードなシーンの撮影を無事に撮り終えると、みんなで拍手なんかしちゃったりしてね。すると感動して泣いちゃう子もいる。こういう感じって、学校を卒業しちゃうとなかなか味わえないもんです。いや、今なんかだと学園祭なんかも、あんまり盛り上がらないというから、撮影現場でこういうムードを初体験するって女の子もいるかもしれないですね。

 そういえば、女の子同士が仲のいい風俗店などでは、お店を辞めてからも遊びに来たりする子がいたりします。まるで、卒業したOBが学校を訪れるように。
 そう考えると、風俗とかAVってのは、女の子にとっては一種の学校みたいなものだったりするのかもしれません。いつかは卒業していくというところも似ています。いろんな意味で勉強になる仕事でもありますし。
 となると、引退してもこの業界に関わっていたいというのは、教師とか職員になって学校に残りたいということと同じかも?

 エロ業界が、そんなキレイごとばかりの世界ではないのも当然ですが、そんなこと言ったら学校だってキレイごとばかりの世界じゃないしねぇ(笑)。でも、本来なら対極にあるくらい違うはずのエロ業界と学校という二つの世界に共通するニュアンスがあるってのは、なんだか面白いですね。
 今は、この「エロ業界学校」を卒業したことは、世間的にはマイナスな目で見られちゃったりして、みんな卒業生であることを隠してるわけなんですが、そのうち、これも立派な資格だ、いい人生勉強をして来た、なんていって、評価される時代が来るかもしれません。そりゃ、言い過ぎか(笑)。でも僕なんかマジメにそう思うんですけどねぇ。

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撮影/安田理央
安田理央(やすだ・りお)
1967年生まれ 埼玉県出身 美学校考現学研究室卒業。
雑誌編集プロダクション勤務、コピーライター業を経て1994年よりアダルト系フリーライターに。得意なジャンルは、風俗、AV、デジタルエロ、マンガなど。現在、『デラべっぴん』(英知出版)、『BUZZ』(ロッキングオン)をはじめ多数の雑誌でコラムを連載中。著書に『OPEN&PEACE 風俗嬢ヴァイブス』(メディアックス)など。またAV監督、デジタルカメラマン、バンドのボーカリストなどとしての顔もアリ。妻子もアリ。