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法的トラブル相談室-第90回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
私をだました売れないタレント。
ツイッターに事実を書き込んだら、 名誉毀損だって責められた!
イラスト

  以前、結婚を前提に付き合っていたA男は、三流タレント。でも、やっと人気が出始めた半年ほど前、実は結婚していたことが判明しました。公式のプロフィールも「独身」となっていたので彼を問い詰めると、「人気のために、会社の方針で独身ということにしていた」と……。もちろん別れることにしましたが、私にとっては大ショック。思わずツイッターに「A男にだまされた」「独身だって言ってたのに既婚者だった」などと書き込み、それが芸能ニュースとして広まってしまいました。それっきりA男とは会っていないのですが、先週、急に連絡が。私の書き込みのせいで仕事が減り、奥さんとも離婚することになったので、きっかけをつくった私を名誉毀損で訴えると言うんです。でも、私が書き込んだのは事実だけだし、そもそもA男が私をだましていたんだし……。私、訴えられるようなこと、していませんよね?

(つい書いたーさん/2 2歳)

・タレントの元彼と婚約していた
・ 「彼にだまされた」などと、ツイッターに書き込み、それが芸能ニュースになった
・ 仕事も家庭もうまくいかなくなった彼から、名誉毀損で訴えると言われた
・ 彼が既婚者だったことがわかり、別れた
質問
たとえ本当のことでも
他人の人格を傷つけてはダメ

  名誉毀損(刑法第230条)とは、人の品性や名声、信用といった「人格の価値」に関する社会的な評価を傷つけることです。
「だまされた」「独身だと言ったのに既婚者だった」などの書き込みを見た人たちの多くは、「A男さんって、ひどい男!」と思ったはず。
つまり、つい書いたーさんの書き込みは、まさにA男さんの人格に関する評価を下げていることになります。
事実を書いて何が悪い、と思うかもしれませんが、言ったり書いたりしたことが本当かウソかにかかわらず、名誉毀損は成立するのです。
「本当のことだから罪にならない」という理屈が認められるのは、「公共の利害に関する事実を公益のため述べた」と見なされる場合だけ。
あまり人気のないタレントさんの結婚や女性関係の問題は「公共の利害に関する事実」とは言えず、さらに、それを多くの人に知らせることが「公益のため」になるとも思えません。
残念ながら、つい書いたーさんのしたことは、名誉毀損に当たるでしょう。
ただし、二人が婚約していたことがきちんと証明できるのなら、つい書いたーさんは「だまされた」ことになります。お金や財産をだまし取られたわけではないので詐欺罪は成立しませんが、結婚する気もないのに婚約するのは立派な不法行為。
裏切られたことによる精神的な苦痛を理由に、慰謝料などの損害賠償(民法第710条)を求めることができます。彼がどうしても訴えると言うなら、つい書いたーさんも「不法行為で慰謝料請求してやるから!」と対抗してみましょう。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。