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法的トラブル相談室-第73回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
祖母の葬式を口実にズル休みしたら店から香典をもらっちゃった!
ホントはおばあちゃん、元気なんだけどね……。
イラスト

  急に彼と旅行に行くことになり、「祖母が亡くなったので、北海道の実家に帰る」という理由で、仕事をズル休みしました。3日休んで出勤したら、なんと、店長から香典を渡されちゃって……。「遠方だから、お通夜やお葬式にも行けなくてごめんね。店のみんなからの気持ちだから」だって! 今さら「ウソでした。おばあちゃんは元気に畑仕事してます」なんて言えないので、とりあえず受け取っちゃいました。彼に話したら、「詐欺なんじゃないの?」って言われたけど、私は香典を巻き上げようとしてウソをついたわけじゃないし。店のみんなには申し訳ないと思うけど、私のしたこと、詐欺じゃないですよね?

(黒い恋人さん/23歳)

・「祖母が亡くなった」とウソをついて、仕事をズル休みした
・休み明けに出勤したら、店長と店の同僚からの香典を渡された
・「祖母が亡くなったのはウソ」と言いづらかったので、香典を受け取った
質問
香典をもらった時点で
ウソを白状するべきでした

  親族の不幸は、ズル休みなどの言い訳としては最もポピュラーなものの一つ。同時に、事実だった場合、最もつらいことの一つでもあります。状況にもよりますが、黒い恋人さんの場合、店長や同僚の中には「ウソだったりして……」と思った人がいたかもしれません。でも、ウソであるとはっきりしていない以上、本人の言うことを信用するのが社会というもの。そして、身近な人の不幸に対しては、通夜・葬儀に参列するなどして弔意を表すのが日本のマナーです。葬儀会場が遠いなどの理由で参列できない場合、香典だけを贈られることも予想できるはずです。
「今さらウソとは言えない」という気持ちはわかりますが、香典は亡くなった方の親族に贈るもの。きっかけとなった「祖母が亡くなった」というウソは、香典をねらったものではなかったのでしょう。でも、祖母が亡くなったと信じこんでいる店長や同僚たちが香典を差し出した際に、「実は祖母は亡くなっていませんでした」と、その誤信を解かないという不作為(★)により、詐欺(刑法第246条)となってしまいます。これはつり銭詐欺と同じことです。
 黒い恋人さんにしてみれば、「言いにくいことを黙っていただけで、お金を取るためじゃない!」と言いたいところでしょうが、それではすまされません。法律では「するべきときに何もしなかった」ことも、ひとつの「行為」と見なされ、法的責任が生じるのです。本物の詐欺師にならないため、せめて今からでも店長や同僚に事情を話してお金を返し、心からおわびして許してもらいましょう。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。