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法的トラブル相談室-第66回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
書いてあるとおりにしつけをしてるのに何も覚えないうちの犬。
この本、ちょっとおかしくない?
イラスト

  念願の子犬を家族に迎えました。よいコに育てたいので、一般家庭向けのしつけの本を買い、張り切ってトレーニングを始めました。でも、毎日頑張り続けて2ヵ月たっても、「おすわり」さえできない! 私が本に書いてあるとおりのことをしても、うちの犬の反応はすべて予想外。全然言うことをきいてくれないんです。この本に書いてあることなんか、ウソばっかり! 返品するから、お金を返してほしいんですけど!?

(ポチさん/23歳)

・犬のしつけの本を買い、子犬のトレーニングを始めた
・本に書いてあるとおりにしても、犬が言うことをきくようにならない
・本を返品し、代金を返してほしい
質問
本の内容ではなく
犬の性格・能力の問題かも……

  書店で本を買うことも、売買契約の一種。本を返して返金を求めるためには、売買契約を無効とするか、契約そのものを取り消したり、解除する必要があります。ポチさんのケースに当てはめると、契約を無効にできる可能性があるのは、「この本に書いてあるとおりにすれば、うちのコだってしつけられる」という錯誤(勘違い)があった場合。契約を取り消したり、解除ができるのは、本の内容にだまされた、と認められるような場合や、欠陥があったりした場合でしょう。「欠陥がある」「書いてあることはウソばっかり!」というのは、あくまでポチさんだけの言い分。「勘違いさせられた」「だまされた」という理由で契約の無効や解除を求めるなら、せめて「ほかの多くの読者もしつけに失敗している」などと証明する必要があるでしょう。世間にはノウハウ本がたくさんありますが、常識からかけ離れた内容でなければ「ウソ」とまでは見なさないのが一般的だからです。
また、内容が「犬のしつけ」であるだけに、犬の性格や能力なども結果に影響するはずです。例えば『絶対合格! ○○高校受験』というタイトルの参考書があったとします。その本で勉強した人が、全員合格しているでしょうか? おそらく不合格だった人は、自分の能力不足が原因だと考えるはず。「『絶対合格!』という本にだまされた!」とは思わないのではないでしょうか。ポチさんのケースもこれと同じ。返品や返金が認められることはないでしょう。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。