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法的トラブル相談室-第19回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
愛犬に飛びかかってきた大型犬を
つき飛ばしてケガさせた!
イラスト

近くの公園で愛犬のチワワを散歩させていたら、突然、大きなラブラドール・レトリーバーがうなりながら飛びかかってきました。ラブラドールにはリード(引き綱)もついていないし、近くに飼い主さんの姿も見えません。このままじゃ愛犬がかみ付かれる! と思い、とっさにラブラドールを突き飛ばしたら、運悪く相手の犬にケガをさせちゃったんです。犬のあとを追ってきた飼い主は、「うちのコにケガをさせた!」と大激怒。犬の治療費と慰謝料を払えって……。
飼い犬にケガをさせたのはかわいそうだと思うけど、放してた飼い主にも責任があるんじゃないの~?

(24歳/大型犬に勝った女さん)

・公園で愛犬を散歩させていた
・突然、犬が愛犬に飛びかかってきた
・犬には引き綱がついていなかった
質問
犬の体重差&相手の犬の様子から、正当防衛が成立します

チワワとラブラドール・レトリーバーの体重は20倍近くの差があり、まともに闘ったらチワワに勝ち目はありません。おまけにラブラドールは「うなりながら飛びかかってきた」のですから、「愛犬が危ない」と感じた飼い主が、とっさに愛犬を守るのは当たり前。大型犬に勝った女さんの行為は、相手の不法行為から身を守るための反撃、つまり正当防衛(刑法第36条)と解されるでしょう。正当防衛の場合、相手にケガをさせても罪に問われることはありません。また、公共の場で犬を放すことは各都道府県の条例(東京都の場合、「東京都動物の保護及び管理に関する条例第9条」)で禁止されていますから、ラブラドールの飼い主に責任があることも明らか。大型犬に勝った女さんは、治療費も慰謝料も支払う必要はありません。
ただし、同じようなケースでも、条件が異なれば正当防衛が成立しないこともあります。たとえば、相手の犬が遊んでもらおうとして駆け寄ってきたのに突き飛ばしてケガをさせてしまった場合。「攻撃される」とカン違いしたための反撃は、「誤想過剰防衛(思い違いによって身を守る行為をとり、相手にケガをさせること)」とされます。誤想過剰防衛には違法性があるので、損害賠償などの形で何らかの責任を問われるのは仕方がないでしょう。また、このできごとが、「ドッグラン」など、たくさんの犬を放して遊ばせる場では、犬どうしのトラブルが起こることも想定の範囲内のはず。その場合は予見し得たチワワの飼い主さんにも過失があると解され、治療費の一部を負担するなどの責任を負うことになるでしょう。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。