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法的トラブル相談室-第16回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
バイト中、お客さんの服を汚しちゃった。
クリーニング代を払うのは店?私?
イラスト

バイト中、手がすべって運んでいた飲み物をこぼし、お客さんの服を汚してしまいました。運よくお客さんもいい人で、それほど文句も言われなかったし、汚してしまった服も超高級品ってわけじゃなかったので、店長と一緒に謝罪してクリーニング代を支払い、一件落着。……と思ったのに、なんと店長から、お客さんに支払った分のクリーニング代を請求されました。
たしかに私の失敗だけど、こういうお金って、普通お店が負担するもんじゃないの?

(22歳/セコい店の従業員さん)

・バイト中、うっかりお客さんの服を汚した
・クリーニング代を支払ったのは店長
・店長からクリーニング代を請求された
質問
お店側が仕事をきちんと指導・監督していたか?がポイントに

原則として、事業のために人を雇っている人は、雇われている人が仕事中に他人に与えた損害を賠償する責任があります(民法第715条1項)。セコい店の従業員さんは、アルバイト中にお客さんの服を汚してしまったのですから、お客さんに支払うクリーニング代は店側が負担するのが基本です。 でも、「あ~、よかった」なんて安心するのはちょっと待ってください。じつはこのお店が賠償したお金を従業員が負担しなければならないことがあるからです。雇う側が相当の注意を払って仕事を監督していた場合、つまり、お店の責任者である店長が、従業員の仕事をしっかり指導・監督していたのにもかかわらず従業員がミスをしたような場合は、賠償した分だけ従業員に求償することができる(同条3項)からです。 問題は、お店が「求償権」を用いることができるかどうか、という点。求償権とは、他人の行為によって賠償の義務を負担させられた人が、その当人に返還を求める権利のことですが、信義別上、使用者側に指導・監督上の落ち度がある場合には、求償権を行使できないと解されています。お店側の仕事の指導・監督に問題がなかった場合、店長は「キミの失敗のせいでお客さんに支払ったクリーニング代、返せ!」と言うことができるのです。 セコい店の従業員さんがクリーニング代を払わなければならないかどうかは、お店側の指導・監督の状況によって決まってきます。仕事の指導が不十分だったり、異常に忙しくて一度に大量のグラスを運ばされたりしたような事実があるのなら、店の業務態勢に問題あり。お店側の求償権は認められません。でも反対に、お店側の管理状況に問題がなかった場合は、おとなしくクリーニング代を支払わなければならないでしょう。
店員さんの注意義務違反が証明できれば、不法行為として損害賠償(民法第710条)を請求することができますが、このケースでは、高かったのにさんの責任も重大。店員さんの法的責任を問うのは難しいでしょう。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。