レディコミ人生劇場
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第14回『悪女志願』の巻
すっかり秋らしくなりましたね~。秋といえば読書!てなわけで、いつもは雑誌のレディコミを紹介しているこのページなんだけど、今回はちょっとディープにレディコミの源流といえる単行本をご紹介したいとおもいます。 それはあの巨匠、里中満智子先生の『悪女志願』(双葉社)。なんと20年も前、「ヤングレディ」というちょっと大人向けの女性誌に掲載されたもの。普通 レディコミといえば、S社が出した「フォアレディ」が最初といわれているんだけど、これを見ると「ヤングレディ」がその先をいってたんじゃあないのかな。やがて「YOU」という雑誌が大当たりして「レディコミ」というジャンルが認知され、ひとつのブームになっていくんだけど、この頃はまだ女性向けにセックスをテーマにした作品を扱うこと自体が、冒険だったんじゃないかと思うのね。レディコミブームの3年以上前にこいう作品を描いていらっしゃるとは、里中先生流石ーーーって感じです。

 さて、本作はそんな「婚前交渉」や「自由恋愛」をするだけで『悪女志願』なんてタイトルが付けられちゃった時代の作品です。今の女の子には想像もつかないかも知れないけど、ほんの20年まえの女の子たちは「好きな人に体を許すかどうか」で死ぬ ほど悩んだんだよ。私はこの作品、中学生だった当時にリアルタイムで読んだ覚えがあるのね。美容院の娘の友達の家に行くと(美容院の娘ってのがマセてるんだこれが)あって、『うあー。おとなの世界やなー。ええなー』と、おマタをじんじんさせながら読んだのを覚えてる。早く大人になって、こんなふうに男に言い寄られたいと思いましたね。当時は「君を抱きたい」「やめて!」なんてのを読むだけで、そらもー興奮できたもんよ。
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でね、そういう「昭和ムード歌謡の香りバリバリの世界」だもんだから、悪女、というタイトルがついてるわりには、主人公の聖子って女がびっくりするくらいおぼこくてバカなんだわ。幼稚な男に処女を捧げて、親のすねをかじって甘えてるだけの男に尽くすためにアルバイトしてアパートを借り、さらにお金をねだられるようになったあげく、それをギャンブルにつぎこまれてしまうというお粗末さ。「こんな目に会うまえに目ぇさませ!」と、じりじりしちゃうくらい、聖子ってダメ女なのね。次には2回も不倫するし、「結婚しよう」なんていう妻子もちの言葉に惑わされて、もうひとりの男と別 れちゃったりさ。(ま、こっちも妻子もちだから別れて正解なんだけど)。次は単に独身なだけが取り柄の、煮え切らない男とつきあっちゃってさー。なんての? まったく男を見る目がないんだわさ。

 でもそんな聖子がちっとも憎めない。「援助交際」や「不倫」に慣れすぎて、すぐ男を値踏みして、「自分に得になる男」を選ぶ技術ばかり身に付いたアタシたちの知らない本気と一生懸命さからくる輝きを、聖子は持っているんだよね。里中先生は『悪女志願』というタイトルをつけつつも、逆説的に、「清らかすぎるゆえに悪と呼ばれる行動をとってしまうけれど、決して汚れない聖なる女心」を描きたかったんだろうと思うのね。読んでるうちに、「私もこんな心、取り戻したい。バカになってただ好きな男におぼれてみたーい。」って気分にさせられてしまうんだもの。

 さて、最後聖子が見いだしていく結論がまた味わいぶかくて『あ、本当の愛ってこんなかも』って感動させられる。昔も今も、女の問題は一緒なんだね。昭和の匂いベタベタであっても、本質が今と何も変わらないんだもん。ただ自立しても、女は幸せじゃないし、恋だけに殉じても、社会からあぶれていくだけだし……。

 だからね、この「悪女志願」はいつでも本屋さんで手に入るから是非買って読んでみてほしい。OLのあなたも、風俗でバリバリ稼いでるあなたも、いつか出会うやがて若さが失われて行くときの女の「分かれ道」が描かれているから。

 それにしても日本の男って、昔も今も、インテリもガテン系も、総じて煮え切らなくて甘えてんのよねー。覚悟しきらない男だけは選んじゃ駄 目。茶坊主と付き合うなら、女は仕事を手放したらだめだわよ。ちゃんとした男となら、仕事やめて家庭に入ってもいいけどね。ついでに言っとくと、シングルマザーの道を選んで、意地を通 したために、社会から見捨てられていく女の人の物語も入ってます。このキャラも忘れられない。とにかくいろんな女の子が、自分をきっと重ねて勉強できると思います。すぐにも本屋さんに行って、買うべし!!
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。