さかもと未明

第十二回

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シンデレラ
第12回 『シンデレラ 』の巻
あけましておめでとーう!! 今年一番は極上のレディスコミックを紹介します。最近レディコミがいまいちつまらなくて、フツー漫画をクルーズしてたんだけど、いいレディコミがあればそりゃもち最高! で、その作品は森園みるく先生の『世界一美しい残酷童話 シンデレラ』(双葉文庫/定価743円)なんですね。やっぱし女王の貫禄十分っていう感じ。森園作品はそのクオリティの高さで、一般青年誌を読み慣れた鑑賞眼にも十分魅力的にうつるのであります!

 さて、この作品は正確に言うと「作品集」。『本当は怖いグリム童話』っていう雑誌に発表された、童話をベースにして作られた、大人の童話現代版なんだけど、村崎百郎氏の原作が秀逸でね。なるほど童話っていうのはこんなふうに現代に通じるものがあるのか。やっぱり童話っていうのはそのまま現実のアナロジーで、実に人間の深い部分を捕らえているし、これはフィクションとしてつくられているんだけど、現実にもありそうな人間の本質をついた話しだなあ、と納得させられるわけよ。例えば標題作『シンデレラ』はこんなふうーーー。

 ある日著名な映画監督黒川剛のもとに、1枚のCD-ROMが送られてくる。その中には不明瞭な美女の姿が映されており、監督は一瞬にしてその美女に魅了される。監督はこの美女で生涯最後の映画を撮りたいと、その美女を探すオーディションを行う。

 驚くかな、そのオーディションには数千人の応募があり、だれもが『この美女はわたし』と言い張るのだ。まさにガラスの靴の主はわたし、と言い張る童話の中の女たちと同じなのだが、その設定ゆえに「ありそうな話」。実に現代でもシンデレラというのは生きた寓話なんだなって、はなから感心させられちゃうわけよ。

 オーディションで主演候補の美女は三人に絞られ、当代の人気女優三人が、たったひとつの主演女優の椅子を狙って、孤島でのオーディションに挑むことになる。オーディション方法は、その島での三人の行動すべてをフィルムに写して、それによって選ぶというもの。おもしろいのは、そのオーディションが三人の女優の虚と本質の両方を見事に暴いていく点。「カメラ」を前に「選ばれるための演技」をしているはずなのに、その『虚』が彼女たちの『実』を映していくというパラドックス。やがて殺人事件がおき、孤島でのオーディションはアガサ・クリスティー的な色彩をはらみ、欲望と人間の本質を浮き彫りにしながら、クライマックスにむかっていくーー。

 ね? メチャメチャおもしろそうでしょ? この三人の女優ってのが、また個性豊かでね。わたしたちはきっと自分の分身を三人のうちのだれかに見ると思うの。そしてラストでわたしたちはこのオーディションに仕掛けられた本当の意味を知るわけだけど、これがまた「なーるほど」という感じ。実に知とエロへの好奇心の両方を満たしてくれる漫画でね。本当におすすめなのよ。

 ほかにも赤ずきんや女王メディアなどの華やかな恋がたくさんはいってるこの作品集。不況な世の中のショボさをふっとばしてくれる華やかさで、イッパイよ! 是非読んでみてほしい。

 さて、今年はいよいよ不況がひどくて大変そうだけど、みんなして夢だけは忘れず頑張っていこうね。未明もますます素敵な漫画を紹介すべく、頑張りまーす。
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。