松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。新連載第1回目のテーマは、最近受けた相談から「お店の見分け方」。

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馴染みの風俗嬢のところに遊びに行ったときのこと。私の顔を見るなり、彼女はこんなことを言ってきた。

「ねえ、相談があるんだけど」

 彼女は会うたびに相談事をしてくる。相談に乗ることによって、彼女のことは知らないことがないくらいに知っている。そうなっているがゆえに、いよいよ彼女としては、私が一番の相談相手になっているみたい。

「いい店ってどこで見分けたらいいの?」

 相談内容は毎回違っているのだが、今回は難問である。

 どうしたのかと思ったら、店がゴタついて、彼女の仲のいい古株が次々と退店させられており、自分もそろそろいられなくなるかもしれないのだという。そりゃ一大事だ。

「新しい店を探した方がよさそうなんだけど、私はこの店しか知らないから、店を選ぶ判断基準がわからないじゃないですか」

「客観的に見て“いい店”“悪い店”というのはあると思うんだけど、それで言うと、ここはかなりいい店だよ。それ以上のことになると、自分で判断するしかないよね」

 ある人にとっては「しっかりと教育をするいい店」が、ある人にとっては「厳しくて、うるさい店」になる。ある人にとっては「のんびりした居心地のいい店」が、ある人にとっては「ルーズでだらしのない店」になる。特にサービス内容の向き不向き、人の好き嫌いになると、他人では判断しようがなく、「稼げる店だけど、私は本番ができない」「いい店かもしれないけど、あの店長は嫌い」と言われたらそれまでだ。

「でも、私は客観的に見て、どこがいい店なのかもわからない。店を移って、あとで後悔するのもイヤじゃないですか」

 私は普遍的基準になりそうないくつかの点を教えた。
区切り

「広告でウソを書いている店は信用しない方がいいかも。“風俗店ではありません。ハダカにならず、体には触られません”なんて書いてあって、行ってみたらおさわりパブで触られ放題だったり、全裸でフェラをしなければいけない店だったりして。ウソまで言って人を集めなければならないってことは、どんどん人が辞めているってことだから、なんか問題がある可能性が高いってことでしょ。面接に行って、あまりに話が違っていたら、帰った方がいいかも」

「でも、求人誌を見ても、どこもはっきりとしたサービス内容って書いてないから、よくわからないですよね」

「詳しく書けないんだよ。雑誌が職安法違反とか売防法違反の幇助(ほうじょ)で摘発されちゃうから。だからといって、全裸になってフェラや素股までするのに、“ノーヌード・ノータッチ”とまで書くのはウソだよね。そういうコースもあるけど、そのコースじゃ稼げないからって、結局、全裸でフェラするしかないってこともよくある。100パーセント、ウソではないにしても、こういう人の集め方もどうかと思うよ」

「電話をしてもあまりはっきり教えてくれない店もありますよね」

 彼女はすでにいくつかの店に電話してみたようだ。

「電話でも言いにくい。たとえば本番の店では、本番していることを店が知っていると管理売春になり得るし、場所を提供したということでも売防法にひっかかる。相手は警察かもしれないんだから、電話で詳しい事情を言わないのは、必ずしも悪い店の基準にはならない。警察が内偵するために、婦人警官が面接にまで来ることがあるって言うから、女のコからの電話だからって安心はできない」
区切り

 こういう法律の規制については、ほとんどの女のコたちが意識していないものだが、最低限のことは知っておいた方がいいと思う。

「働くんだったら、許可店の方がいいですよね」と彼女は言う。

「売防法や職安法、児童福祉法違反で摘発されることもあるけど、たしかに無許可の店の方が摘発されるリスクが高い。店が摘発されたとしても、女のコたちは参考人でしかないけど、誰も警察には行きたくないよね。せっかく慣れていた店がなくなったり、しばらく休みになるのも困るわな。ただ、東京の場合は、許可店は圧倒的に少ないから、許可店でしか働かないとなると、選択肢が狭まるよ」

「この店は摘発されないよね」

「まずないだろうね。ここみたいにホテルに出張するとか、別法人になっているレンタルルームに出張するならいいけど、店舗型なのに、念のために出張の申請を出しているだけだと、あんまり意味がないよ。出張の届出で店舗を出していても、全然警察がうるさくない地域もあるけどね。摘発という意味では、届出を出している出張風俗の方がリスクが少ないとも言えるけど、出張の店は、いい加減なところと、しっかりしたところと両極で、風俗業界のことをまったく知らずに安易に始める人も多いから、びっくりするような話があるよ。オーナーが自宅で始めて、二人きりになると寝室に連れていかれてセックスの相手をさせられるとか」

 実際にそういう出張ヘルスで働いていたコに聞いた話だ。どうせこういう店は長続きしないから、とっとと逃げ出した方がいい。
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